· 

検証:スピーカーケーブルで音は変わるのか?

はじめに

Amazonでスピーカーケーブルを探していると「中高音が伸びる」だの「低音が出ない」だの、あたかもスピーカーケーブルを変えることで音が変わるようなレビューが多いのに驚きます。私は今までそのようなことは経験したことがありません。本当にスピーカーケーブルによってスピーカーから出る音が変わるのでしょうか?変わるとすればなぜでしょう?そしてどの程度変わるのでしょうか?

スピーカーケーブルの物理特性のうち静電容量はスピーカーのLCネットワークに影響するには小さすぎます。唯一スピーカーから出る音に影響する可能性があるとすれば直流抵抗です。Revel M106/M105のマニュアルには次のような記載があります。

NOTE: High loop resistances that exceed 0.07 ohms (for each wire run) will cause the loudspeaker’s filter network to be misterminated, resulting in considerable degradation of sound quality.(注記:スピーカーケーブルの往復の抵抗値が0.07Ω(左右の各配線ごとに)を超えると、ラウドスピーカーのフィルターネットワークが誤作動を起こし、音質が著しく低下します。)

 

Revel M106/M105の公称インピーダンスは8Ωです。インピーダンスとは(不正確ですが分かりやすく言えば)交流における抵抗値です。スピーカーケーブルの往復の直流抵抗値は、スピーカーのインピーダンスの1%未満にしなさい、という事らしいです。もしもスピーカーのインピーダンスが常に一定で8Ωとすれば、スピーカーケーブルの直流抵抗により電圧降下が起きてもボリュームを上げればすむ話です。なぜ音質に影響があるのでしょうか?

なぜスピーカーケーブルによって音が変わるのか?

2言で言えば「スピーカーのインピーダンスは周波数によって大きく変わる。そしてスピーカーの駆動電圧はインピーダンスの影響を受ける。」からです。この影響はスピーカーケーブルの直流抵抗が小さければ少なく、大きければ大きくなります。

もう少し詳しく説明していきます。スピーカーのインピーダンスは上図の「R3:スピーカーのインピーダンスの例」で示すように周波数によって大きく変化します。これは1例であり、インピーダンスはスピーカーによって違います。公称8Ωのスピーカーでも下は4Ωから上は40Ωまでインピーダンスが変化する場合があります。アンプの出力インピーダンスをR1、スピーカーケーブルの片道の直流抵抗をR2(往復でR2×2)、スピーカーのインピーダンスをR3、アンプの元の電圧をV1、スピーカーの駆動電圧をV2とすると、V1に対するV2の比は、

 

 V2/V1 = R3 ÷ (R1 + R2×2 + R3)

 

で計算できます。Revel M105のR3は上図のように4Ω以下から40Ω以上まで10倍以上の差で変化します。R1とR2が小さければ(0に近ければ)V1≒V2となり電圧降下の影響は少なくて済みます。R1とR2が大きければ、V2/V1は1を下回りますが、それはR3の値に依存します。R3の値は周波数により大きくかわりますから、周波数によって電圧降下の割合が変わることになります。電圧降下により音圧が下がります。このため理屈の上ではスピーカーケーブルにより音が変わる(周波数特性が変わる)ことになります。

 

上記の説明によると、スピーカーケーブルの直流抵抗(R2)だけでなく、アンプの出力インピーダンス(R1)も駆動電圧に影響を与えます。アンプの出力インピーダンスはダンピングファクターとしてアンプの仕様で公開されている場合があります。スピーカーのインピーダンスをアンプの出力インピーダンスで割ったものをダンピングファクターと呼びます。

 ダンピングファクター (DF) = スピーカーのインピーダンス (R3) ÷ アンプの出力インピーダンス (R1)

例えばヤマハのエントリークラスのプリメインアンプ A-S301の仕様を見ると、ダンピングファクターは
 210以上(1kHz、8Ω)
と書いてあります。つまりA-S301の出力インピーダンス(R1)は R3/DF = 8/210 = 0.0381Ω ≒ 0.04Ωです。

ダンピングファクターの説明はヤマハのQ&A「ダンピングファクターとは何でしょうか?」が詳しいので、ぜひ読んでください。ダンピングファクターが高ければ、その分、アンプの出力インピーダンスは低いことになり駆動電圧への影響が小さいので好ましいです。真空管アンプのダンピングファクターは10未満のものも多く、ダンピングファクターが高いか低いかは重要な問題でした。しかし現在のアンプはAB級でもD級でもダンピングファクターは100を超えるものがほとんどです。上記のヤマハのQ&Aには「『ダンピングファクターが大きければ、音が良い』といわれていたのは真空管パワーアンプの時代のことで、トランジスタを使用したアンプでは、あまり意味のない(音質に影響を与えにくい)数値になっています。」と書いてあります。

 

余談になりますが、Benchmark社の技術資料には「ダンピングファクターは重要ではない」という説に対する反論が書いてあります。これは長文である上、なかなか技術的に難しいので「ぜひ読んでください」とは言えませんが。
 技術資料:「ダンピングファクターは重要ではない」というオーディオの迷信
ここに書いてある計算は100%正しいですし「ダンピングファクターが300未満のアンプは、再生システム全体の周波数特性に検知可能な音質変化を与える可能性があります」という結論も理論的に正しいです。しかし、どの程度の変化を「検知可能」かは人によって違いますから「あまり意味がない(ヤマハ)」も「音質変化を与える可能性がある(Benchmark)」も間違っていません。私はどちらかというとBenchmarkよりヤマハの説明の方が現実的と思います。

スピーカーケーブルの直流抵抗はどの程度か?

スピーカーケーブルの直流抵抗値は1mあたりmΩ単位のためハンディータイプのデジタルマルチメーター(測定精度は通常0.1Ω程度)では測定困難です。mΩ精度の測定には左のような据え置き型の本格的なデジタルマルチメーターが必要です。しかも測定入力ケーブルの抵抗も影響しますから、その影響を少なくするため4端子(4WΩ)抵抗測定に対応している必要があります。

 

測定方法はスピーカーケーブルを1mに切り、1端をショートして安定させるためにクランプで固定し、同じく抵抗値を安定させるために直線的に伸ばしてテープで固定します。そしてもう1端で4端子(4WΩ)法で測定します。これで往復2mの抵抗が測定できますから、1/2すれば1mあたりの抵抗値になります。

 


左に手持ちの各ケーブルの抵抗測定値を抵抗の小さい順に示します。芯径が太ければその分、抵抗は小さくなりますが、同じ16AWGのケーブルでもBeldenのケーブルよりもAmazonの方が抵抗が大きいです。理由はBeldenのケーブルの導体はTC - Tinned Copper(すずメッキした銅)であるのに対して、Amazonのケーブルは CCA - Copper-Clad Aluminum(外層に銅を使ったアルミ)と材質が違うからです。通常、スピーカーケーブルは OFC - Oxygen-Free Copper (無酸素銅)が使われることが多いです。


直流抵抗の違いはどの程度音質に影響するか?(理論値)

では実験の前に電圧降下の理論値を計算してみましょう。多くの方はスピーカー間隔は3m以下で聴いていると思います。スピーカーケーブルは2mあれば十分でしょう。ここでは念のため4mのケーブルで計算します。往復で8mですから最も直流抵抗の小さいaudio-technica AT6158と、もっとも大きいAmazon Basic 16 AWGの直流抵抗値は次のようになります。

 audio-technica AT6158:7.4mΩ x 4m x 2(往復) = 59.2mΩ ≒ 0.06Ω

 Amazon Basic 16 AWG:25.8mΩ x 4m x 2(往復) = 206.4mΩ ≒ 0.2Ω
audio-technicaのケーブルは Revelが推奨している 0.07Ωを下回ります。一方でAmazonの方は3倍くらい上回ります。アンプの出力インピーダンスはYamaha A-S301を想定して0.04Ωとします。

 audio-technica AT6158:R1 + R2 × 2 = 0.1Ω

 Amazon Basic 16 AWG:R1 + R2 × 2 = 0.24Ω
電圧降下を計算してましょう。例えばスピーカーのインピーダンスが4Ωの場合、audio-technica AT6158による電圧降下(V2/V1)は、

V2/V1 = R3 ÷ (R1 + R2 ×2 + R3) = 4Ω ÷ (0.04Ω + 0.03Ω×2 + 4Ω) = 0.976 ≒ 0.98 になります。 同じく Amazon Basicは0.943 ≒ 0.94です。この2つのケーブルの電圧降下の比は、0.943 ÷ 0.976 = 0.966 ≒ 0.97。感覚的に分かりやすいようdBに変換すると -0.29 dBです。つまりAmazon Basicのケーブルを使うと、audio-technicalのケーブルと比べ-3%または -0.29dBだけ駆動電圧が低下することになります。

左図はスピーカーのインピーダンス(R3)を 4Ω、8Ω、16Ω、32ΩでV2/V1を計算した表です。4Ωと32Ωでは電圧降下の割合が違いますから、それが音圧にも影響することになります。電圧と音圧は必ずしもリニアに比例しませんが、この程度の差を音質の差として聞き分けることは困難と思います。


直流抵抗の違いはどの程度音質に影響するか?(実測値)

上図は実際にRevel M105で、各4mのaudio-technical AT6158とAmazon Basic 16 AWGを使って周波数特定を測定したものです。赤色の線がAT6158、緑色の線がAmazonです。ほとんど違いがありませんね。

左図の下の太い線がRevel M105のインピーダンスの実測値です。上の細い線はフェーズです。インピーダンスが10Ωを超える1kHzあたりでは殆ど音圧の差がありません(差は0.07dB)。インピーダンスが最も低いのは200Hz~500Hzあたりで4Ω程度です。このあたりは確かにAmazon(緑色)の方が若干音圧が低いです。しかしカーソルを500Hzに合わせて値を読み取ってみると、

 audio-technica AT6158: -17.78dB

 Amazon Basic 16 AWG: -18.02dB
差は 0.24dB です。多くの人にとっては周波数特性の違いを聞き分けられないと思います。


もう一つ別のスピーカーでも周波数特性を測定してみました。こちらは特注でAEDIOさんに作っていただいたスピーカーで、ツィーター(Dayton ATM-4)、ウーファ(Audio Technology 15J52)ともに公称4Ωですから、Revel M105よりさらにインピーダンスが低いスピーカーになります。AEDIOスピーカーはaudio-technicaとAmazonで1.5kHzあたりで最大約0.7dBの差がありますが(黄色いカーソルのあるあたり)、他の周波数帯はほとんど一致しています。


結論

芯径が太いOFC製で直流抵抗がかなり小さい部類のスピーカーケーブル audio-technica AT6158 と、安価なCCA製で直流抵抗が高いスピーカーケーブル Amazon Basic 16 AWGで周波数特性を比較しても、どの周波数帯も1dBを超える違いはありませんでした。

 

スピーカーケーブルを替えると微小な周波数特性の変化があります。しかし多くの人にとっては気づかないレベルです」ブラインドテストをすれば多くの被験者は差を識別できないと思います。

 

とは言え、直流抵抗の高いスピーカーケーブルは、電圧降下の影響で、周波数帯によっては1dB未満の音圧低下が見られました。それが気になる方は、次のことをお勧めします。

・仕様として直流抵抗が明記されているスピーカー・ケーブルを購入し、直流抵抗が往復で0.07Ωを超えないようにする。

例えば audio-technica AT6157は量販店で230円/m程度で買える安価なケーブルですが、テクニカルデータに直流抵抗が明記されており12.9mΩ/mです。ケーブル長が2mなら往復で0.052Ωとなり、0.07Ωを下回ります。直流抵抗が不明な場合もケーブル長が2m以下、芯径が16AWGから12AWG程度で材質がOFCならおおむね安心できます。16AWGより細いとスピーカーケーブル端子やバナナプラグから抜けやすくなり接続が安定しません。また芯径が細いと直流抵抗も高くなります。12AWG(芯径約2mm)より太いとバナナプラグによっては対応していません。また取り回しがしにくくなり、スピーカーケーブル端子に負荷をかけます。

謝辞

周波数測定計測に使ったARTAの支援などAEDIOの飯田師匠には感謝します。またAudio Science Reviewのメンバー各位には Degradation of sound quality by speaker cables with high loop resistances? というスレッドで、4WΩでの抵抗測定方法などいろいろとご教示いただきました。

余談:Room Gain

検証してきたようにスピーカーケーブルの影響は小さく、スピーカー自体の個性を変えるようなものではありません。しかし部屋の影響は大きいです。壁は音を反射し、ラグやカーテンは音を吸収します。向かい合った壁や天井と床は合わせ鏡のように音を反射して定在波を作ります。これらによりスピーカーの音は増幅されたり減衰されたりします(Room Gain)。スピーカーケーブルに神経を使うくらいなら、もっとスピーカーの配置とリスニングポジションに神経を使うべきです。1例を紹介しましょう。

FOSTEX P802-S

AEDIO AMT-4 + 15J52


まったく特性の違う2つのスピーカーを使います。左はFOSTEX P802-S。実売価格は1万円程度でウーファには1800円くらいのユニットを使っています。右はAEDIOのスピーカーでユニットやネットワークの価格はP802-Sの20倍以上です。周波数特性(上の黒い線)と2次から4次の歪み(下の3色の線)のグラフをご覧ください。比較しやすいように-70dBと200Hzに赤い線を引きましたが、AEDIOスピーカーの方がはるかに低域が出て、歪みが少ないことがわかると思います。

 

この2つのスピーカーの周波数特性を0.5m, 1m, 1.5mの距離で測定してみました。まずは距離による違いを左から右、横方向に比較してください。測定位置によって大きく周波数特性が変わるのが分かると思います。この変化はRoom Gainの影響です。次に2つのスピーカーを上下縦方向に比較してくだい。200Hz(赤い縦線)以下では似た傾向が見られます。これはRoom Gainのうち特に定在波の影響です。

まったく特性が異なる2つのスピーカーが、似たような定在波の影響を受けます。周波数特性へのRoom Gainの影響はスピーカーケーブルなどより遥かに大きいのです。いつかはブログでこのテーマを取り上げたいのですが、Room GainとRoom EQ(イコライザーによる部屋の影響の補正)については勉強中で周波数特性の左右バランスをチェックしている程度です。まだ情報共有できるレベルではありません。

そのうちに...(笑)

日本語ブログ一覧:https://www.openaudiolab.com/blogs/