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DAC 異種バトルロワイヤル

はじめに

DACの役割はできるだけ正確にデジタルデータをアナログに変換してアンプに渡すことです。別の言い方をすると「透明」であるべきと思います。その点において、この10年間のDACの進歩は目を見張るものがあります。

 TOPPING D10sは、SINAD (*) 112dB@1kHz、THD+N 0.0002%、ダイナミックレンジ 120dB@1kHzのUSB DACです。THD(全高調波歪)とS/N比だけでなく、出力フィルタのロールオフ、ジッター、リニアリティ、IMD(混変調歪み)において、ミッドレンジまでのアンプ(SINAD<90程度)には十分以上の性能のDACです。これが11,000円で買える。ハイエンドを目指さない一般ミュージックファンにとっては「DAC戦争は終わった」と断言できるかも知れません。しかしUSB DAC以外のDACはどうでしょう?

 ラズパイにHATとして直接載せるI2S DACボードは、多くの人がUSB DACに音質面で劣ると考えています。実際にはどうでしょう?もしも遜色なければ、ラズパイオーディオにおいては、I2S DACを使った方がUSB DACを使うよりも、プレイヤーがコンパクトに仕上がります。

 また最近のエントリークラスのプリメインアンプに付いている内蔵DACの性能はどうでしょう?遜色なければ、わざわざDACを買う必要はありません。あるいはToslinkで電気ノイズを気にせずにプレイヤーとアンプとの距離を離すこともできます。

 MacやPCの内蔵DACはどうでしょう?(そんなハズはないとお思いますが)仮にUSB DACと遜色がなければ、外付けDACは不要になります。実はある地方のバーで iMacの3.5mmステレオジャックからMcIntoshのアンプにつなぎ、アヴァンギャルド(Avantgarde TRIO)を大音響で鳴らしているのを見ました(聴きました)。バーのマスターには「USB DACを使った方が良い」とアドバイスしたのですが、私は正しかったでしょうか?(笑)

 いくつか代表的なUSB DAC、I2S DAC、アンプ内蔵DAC、PC内蔵DACの1kHz Sin波のTHD+N(全高調波歪み+ノイズ)を比較してみました。もちろんTHD+Nはひとつの指標に過ぎないので、DACとしての総合的なランキングではなく、参考としてご覧ください。
 言うまでもありませんが、DACが出すのは電流であって、音は電圧変化でアンプに伝えるだけです。実際の音はアンプが駆動するスピーカーから出ます。よく「DACの音質」と言いますが、定性的・主観的な評価はアンプとスピーカー(またはヘッドフォン)がないとできません。しかしスピーカーの個性が大きすぎて「正確さ」あるいは「透明度」の欠点の少ないDACの「個性」を聞き分けるのは困難と思います。逆に欠点のあるDACは個性がよく判る場合があります(判らない場合もあります)。欠点の最たるものは周波数特性です。スピーカーと違ってほとんどのDACはフラット(なので透明)ですが、中には透明ではなく色が付いているものがあります。これは聞けば判ります。次にノイズです。ノイズフロアが著しく高いと小さい音が聞きづらく解像度が落ちます。最後に歪みですが、これは信号-60dB程度の(DACにとっては)大きな歪みでもスピーカーから出る音への影響は小さいと思います。THD+N以外の欠点のあるDACは「APPENDIX A. 各DACの詳細」で個別に指摘します。

 前述の通り「正確さ(fidelity, HiFiのFiですね)」あるいは「透明度 (transparency)」を定量的・客観的に判断する指標はTHD+Nだけではありません。他の指標に関しては「APPENDIX B. DACのDA変換性能の指標」をご覧ください。

APPENDIX A. 各DACの詳細へのリンク

APPENDIX B. DACのDA変換性能の指標へのリンク

 

(*) SINAD(Signal-to-noise and distortion ratio)とはTHD+N(全高調波歪+ノイズ)の逆数です。つまり SINAD = 1/(THD+N) です。例えばTHD+Nが信号に対して0.01%とすると、デシベル換算すると -80dB になります。SINADはその逆数ですから+80dBになります。SINADは通常はデジベルで表すので、dBを省略する場合もあります。THD+Nで0.001%と0.00032%を比較するよりも、SINADで100と110を比較する方が分かりやすいので、DACの歪みとノイズの比較には良く使われます。

測定方法

以前のブログ「スイッチング電源 vs リニア電源(完結編)」と同じく、測定は

  1. DACから0dBFSで1kHz Sin波を出力(ただし0dBFSでは極端に歪みが大きい場合は -1dBFSで測定)
  2. Cosmos APUに入力インピーダンス20kΩ(バランスの場合)/10kΩ(アンバランスの場合)で入力し、1kHzの信号を-30dB減衰する
  3. Cosmos ADCで48k/24bitでAD変換する
  4. REW(Room EQ Wizard)で1kHzの信号を+30dB補償し、THD+Nを測定する

という流れ(上図)になります。

結果のサマリ THD+Nの一覧表

では、さっそくTHD+Nの測定結果をお見せします。エントリークラスのプリメインアンプの性能は概ね THD+N = 0.01%、SINAD = 80程度、または、それ以下です。アンプの性能を十分に引き出すには、入力ソースはそれよりも10dB良い必要があると言われています。アンプが THD+N = 0.01% | SINAD = 80なら、DACはTHD+N < 0.003% | SINAD > 90程度が求められます。この投稿では、それ(THD+N < 0.003% | SINAD > 90)を基準とします。結果、その基準(SINAD > 90)はほとんどのDACが満たしていました。
 念のため。「この基準を満たないと直ちに音質が劣化する」というわけではありません。あくまで「アンプのTHD+Nに影響を与えない」という基準です。仮にDACの性能が悪くてアンプのTHD+Nが0.05%に悪化しても、スピーカーから出る音には大きな違いはないでしょう。「エントリークラスのプリメインアンプを使う限り、THD+Nに関してだけ言えば、ほとんどのDACがかなりの余裕をもった基準を満たした」とご理解ください。ハイエンドのアンプとの組み合わせは、その限りではありません。

 もうひとつ民製品のオーディオ機器の事実上の標準として、バランスの場合は入力インピーダンス20kΩでフルレンジ4Vrms、アンバランスの場合は入力インピーダンス10kΩでフルレンジ2Vrmsというガイドラインがあります。アンプのゲインによっては入力1Vrmsでも十分に性能を発揮できます。しかしフルレンジ(0dBFS)で出力しても電圧が2Vrmsより著しく低いDACは、参考値として表の最後に記入しました(黄色の列)。これらは、たとえばイヤフォンへの出力を想定しており、アンプ向けのラインレベルの出力ではないのかも知れません。

(*1) アルミケース・RPi4 2GB・低ノイズ電源込み

(*2) 4in/4outのオーディオインタフェース

(*3) DAC内蔵プリメインアンプ

THD+N/SINADのベストはMOTU M4というオーディオインタフェースのバランス出力で、SINAD=113.2でした。これ以外はすべてアンバランスの出力(RCA端子)になります。MOTU M4はアンバランス出力だとSINAD=107.6でした。信号レベルが高い分バランス出力の方がS/N比で優位になりますが、このTHD+Nの差(113.2dB - 107.6dB = 5.6dB)は、アンバランス出力に対するバランス出力の優位性としては、ごく標準的なものです。

 アンバランス出力のトップは Allo Boss2 というインド製のI2S DACでした。THD+N = 113.0とMOTU M4のバランス出力に迫っています。I2S DACが、USB DACのTOPPING D50のSINAD=109.3を超える性能を出すとは予想外でした。アルミケース・Raspberry-Pi 4の2GB版・低ノイズ電源(Nirvana SMPS )込みで$209というのは驚異的なコスパでした。「でした」と書いたのは残念ながら現在 Out of Stock のようです。これが私のベストバイDACです。

 I2S DACの定番 HiFiBerry DAC+ Proも、期待通りDACチップ(PCM5122)のスペック通りの値(SINAD=92.3)を出してくれました。驚いたのがNanoHAT、および、黄色基盤(ラズパイオーディオ仲間内での俗称)という1000円〜2000円程度のDACボードがHiFiBerry DAC+ Proに匹敵する値を出したことです。残念ながら黄色基盤は今では入手困難です。

 DENON PMA-800NEの内蔵DACは、THD+N = 0.01%というアンプ性能に対して、必要十分な THD+N = 0.00295%、SINAD = 90.6 という値を出してくれました。ジッター耐性もなかなか良く、安心して使えます。Marantz NR1200の内蔵DACはよくわからない点があり、後のAPPENDIX A.で説明します。

 PC内蔵DACに関しては、HP PavillionのものはよくあるRealtek High Definition Audioというドライバーを使う標準的なサウンドチップです。イヤフォンを想定したものと思われ、ライン出力として使うには出力レベルとTHD+Nの両方で無理があります。

 MacBook Proは出力レベルが低いもののライン出力として実用的に使えます。アンプに十分なゲインがあれば、かつアンプの性能が SINAD = 80, THD+N = 0.01%程度かそれ以下であれば、MacBook ProのSINADは95.4ですからアンプの性能を100%活かすことができるはずです。そこでMacBook Proの3.5mmステレオジャックからDENON PMA-800NEアンプ (スペックはTHD+N = 0.01% @定格出力-3 dB時、負荷8Ω、1 kHz)に直接接続し、アンプのボリュームで調整して8Ω負荷、1kHz、5W出力でTOPPING D50とTHD+Nを比較しました。前に「そんなハズはないとお思いますが」と書いたのですが、結果、Macの方が若干歪みが大きいですが、どちらもTHD+N = 0.008% 程度で大きな違いはありませんでした。アンプがSINAD = 80程度であれば、DACの性能がSINAD = 95程度 (Mac)だろうが、109程度 (TOPPING D50)だろうが、理屈の上ではアンプの性能に悪影響を与えることもなければ、逆により良くするわけでもないので、当然と言えば当然です。

TOPPING D50 → PMA-800NE 8Ω負荷 5W出力

SINAD = 82.3 / THD+N = 0.0077%

MacBook Pro 14" → PMA-800NE 8Ω負荷 5W出力

SINAD = 81.7 / THD+N = 0.0082%


iMacをMcIntoshのアンプに直結していたバーのマスターにアドバイスした「USB DACを使った方が良い」というのは間違っていた可能性が大きいです。McIntoshアンプのTHD+Nが0.005% / SINAD=86 程度だった場合、DACのSINADが95でも110でもあまり変わらないかも知れません。一方、SINAD > 95程度のハイエンドアンプでは、アンプの性能を発揮するには、外付けの高性能DACが必要になります。とはいえスピーカーの歪みは1%程度でも可聴ではありませんから、SINAD=95/THD+N=0.0018%のハイエンドアンプとSINAD=80/THD+N=0.01%のエントリークラスのアンプで、実際にスピーカーから出る音に大きな違いがあるか?は疑問です。

結論 (THD+Nについて)

  1. I2S DACにもAllo Boss2のようにUSB DACの性能を凌ぐものがあります。Allo Boss2はミッドレンジのアンプと組み合わせても不足はありません。HiFiBerry DAC+ Pro / HiFiBerry DAC2 Proはエントリークラスのアンプに対して十分な性能を持っています。
  2. エントリークラスのプリメインアンプに内蔵のDACは、十分にそのアンプの性能を生かせるだけの性能があると思われます。
  3. MacBook Proの3.5mmステレオジャックは低インピーダンスのイヤホン、高インピーダンスのヘッドフォンの他、ラインアウトとしても使えます。アンプのゲインが十分あれば、USB DACと比べても遜色ありません。
  4. 標準的なPCの3.5mmステレオジャックはイヤホン専用と思われます。
  5. アンプの性能を100%活かすには、DACは最低限「アンプのSINAD+10dB」のSINADが必要ですが、それ以上DACの性能が高くてもアンプの性能をさらに高めるわけではありません。

ところが、残念ながら多くのDACがTHD+N以外の測定項目で欠点があることがわかりました。例えば、

  • TOPPING D50: 出力レベルを下げるとTHDが悪化し、アンプのTHDに影響を与える。
  • MOTU M4:サンプリングレートの切り替えに1秒程度かかり、その間は無音になる。音楽再生には使いにくい。
  • NuPrime uDSD:ヘッドフォンアンプの音量を上げると、なぜかライン出力が影響を受けてTHD+Nが悪化する。
  • IQaudio Pi-DAC Pro:0 dBFSではクリッピングが発生するため、THD+Nが激しく悪化する。
  • 上海DAC:周波数特性がフラットではない、IMD(混変調歪み)が非常の大きい、44.1k/16bitでは広域が歪む、など多数の欠陥。
  • Marantz NR1200:ジッター耐性が弱く、入力デジタル信号のジッターが大きいとノイズフロアが20dBも上がることがある。

各問題の詳細は、次の「APPENDIX A. 各DACの詳細」で説明します。Audio Science Reviewのレビューで、上記の欠点のうちMOTU M4とNR1200の欠点以外は事前に分かるので、買う前に参考になると思います。

APPENDIX A. 各DACの詳細

Allo Boss2 Player (SINAD=113.0@1.99Vrms)


Allo Boss2 PlayerはAllo Boss2 I2S DACにアルミケース、ラズパイ4、リモコン、DietPi+Allo GUIまたはMoOdeをインストール済みのSD Cardを付けた完成版のプレイヤーです。インドのバンガロール製です。残念ながら現在品切れ中です。私は Nirvana SMPS というリニア電源並みの超低ノイズスイッチング電源と共に購入しました。出力レベルは1.7Vrmsと2.0Vrmsから選べます。測定は1.7Vrms/2.0Vrms両方で行いましたが、結果はほぼ同じでした。表には2.0Vrmsの結果を載せました。

 Allo Boss2 Player、Nirnava共に正に state of the art (芸術の境地)です。ネオレトロな外観は可愛いですし、厚いアルミでがっちりシールドされており(そのためWiFiを使うには外付けドングルが必要ですが)、SINAD、ジッター性能とも申し分ありません。信頼の置ける私のメインプレイヤーであり、毎日 iPhone/iPadからyaMPC (MPD Protocol) または Spotifyアプリ(Spotify Connect)でコントロールして聞いています。今まで買ったプレイヤーの中でベストバイです。参考までに Audio Science Review のレビューへのリンクも付けておきます。

TOPPING D50 (SINAD=109.3@1.94Vrms)


TOPPING D50はラズパイオーディオ界で(そういう「界」があるとすれば、ですが)知らない人はいない中国は深圳にあるTOPPINGのミッドレンジのDACです。現在では TOPPING D50s という後継機種がやや高い価格で販売されています。D50sはD50と比べて少し性能が良く(SINAD=112dB)、Bluetoothレシーバーを搭載し、リモコンが付いています。

 TOPPING D50も厚いアルミでシールドされています。SINAD、ジッター性能とも申し分ありません。多くのDACはSPDIF入力(COAX / Toslink)がUSB入力よりもジッターに弱いです。しかしTOPPING D50は強制的にリクロックするESSのチップのおかげで、COAX入力またはToslink入力にかなりのジッターを含む汚いデジタル信号を送り込んでも破綻がなく、平気でUSB入力と同じSINADで出力できます。参考までに Audio Science Review のレビューへのリンクも付けておきます。

 優秀なDACなので私のリファレンスDACの位置付けでした。しかしアンプの測定に使おうとして、思わぬ欠点を見つけてしまいました。下左のグラフはDENON PMA-800NEの THD+N% vs 出力(W)です。3Wから30Wあたりにかけて、Macの内蔵DACを使っての測定(青色線)よりも、D50(緑色線)の測定結果の方がTHD+Nが高く(=悪く)なっています(左図の赤枠)。そこでD50の出力レベル(dBFS)を横軸にし、縦軸にD50経由のPMA-800NEの出力(赤色線)とD50自体(緑色線)のTHD%にして見てみると、なんと-40dBFSから-30dBFSあたりにかけてD50のTHDがアンプ自体のTHDを上回り、アンプのTHD測定値を押し上げているではないですか!(右図の赤枠)当然、DACのTHDとTHD+Nは常にアンプのそれを下回っていないと測定には使えませんが、-40dBFSから-30dBFSあたりにかけてアンプの性能に悪影響を与えるのはショックでした(涙)。聴覚上、気づくかどうかは別にして、精神衛生上。


MOTU M4 TRS Balanced (SINAD=113.2@5.05Vrms)

MOTU M4 RCA Single Ended (SINAD=107.6@2.54Vrms)


MOTU M4はオーディオインタフェースです。4チャネルの入力と4チャネルの出力があります。入力にマイクやギターやMIDI機器を繋いでDAWソフトで音楽を作る(DTM)のが目的ですね。4チャネルの出力のうち1-2チャネルはモニター出力で、通常はGENELECADAM Audioといったスタジオ・モニターに繋ぎ、音量はMOTU M4のボリュームノブでコントロールします。3-4チャネルは LINE OUT で出力レベル固定です。今回は3チャネルで測定しました。各チャネルともTRSジャック(バランス出力)とRCAジャック(アンバランス出力)が付いています。電圧はバランスは5Vrms、アンバランスは2.5Vrmsと高めです。私のMOTU M4は初期のもので、DACチップはESS製ですが、ADCは旭化成のものを使っています。しかし工場の火事の影響か?は知りませんが、昨年は旭化成のADCチップが入手困難になり、ADCもESS製に変更されました。このためADC性能は飛躍的に向上し、現行のモデルはCosmos ADC(ES9822Proを使用)とほぼ同等のADC性能になっているらしいです。現行のモデルは正規販売店で4万円弱で販売しています。

 私はファントム電源が必要な測定用マイクを繋いで、スピーカーの測定に使用していますが、MOTU M4はボリュームコントロール可能なモニター出力があるので、プリアンプ部を持たない純粋なパワーアンプに直結できます。参考までに Audio Science Reviewのレビューへのリンクも付けておきます。こちらは私のと同じ初期モデルのレビューです。

 DAC性能も申し分ないので、音楽制作用のオーディオインタフェースとはいえ、オーディオ再生用DACとして使えると思いパワーアンプの評価用に使ってみました。ところが、思わぬ欠点を見つけてしまいました。Macだけかも知れませんが、サンプリングレートの切り替えに1秒程度かかり、その間はミュートされます。つまりCD品質のFLACを聴いていて、ハイレゾに切り替えると曲冒頭の1秒が聞こえないのです。これは音楽再生用には致命的です(涙)。

NuPrime μDSD (SINAD=95.9@1.92Vrms)


NuPrime μDSDはコンパクトなDACです。サイズがわかるように横に定規を置きました。ケースはアルミ製なので見た目よりもずっしりと重いです。COAXの出力(入力ではありません)があるので、DACとして以外に、USB→COAXのDDCとしても使えます。3.5mmステレオジャックも付いていますが、ヘッドフォンアンプは非力です。イヤホンには使えますが、高インピーダンスのヘッドフォンは小音量でないと低域に歪みが出ます。MacBookPro 14"/16"のように高インピーダンス対応のヘッドフォン出力がある場合は、このDACのヘッドフォン出力を使う意味はありません。そして、このヘッドフォンアンプがなぜか?ライン出力にも悪さをします。SINAD=95.9というのは、なかなか良い値ですが、ヘッドフォンアンプのボリュームを上げると(当然3.5mmステレオジャックのレベルは上がりますが)、ライン出力はレベルは上がらないのに(1.92Vrmsのまま)、歪みが増大します。ボリュームををMaxにした状態では、SINAD=77.7まで低下します。不思議ですね。用途によってはなかなか良いDACですが、使い方に注意が必要なので、一般には推奨できません。参考までに Audio Science Reviewのレビューへのリンクも付けておきます。

黄色基盤 Amanero経由 (SINAD=92.8@1.85Vrms)

黄色基盤 ラズパイGPIO直 (SINAD=89.8@1.81Vrms)

「Audio Science Reviewにレビューが載っているなら、なぜ Open Audio Labでわざわざ測定するのか?」という声が聞こえてきそうですが、これからですよ!いよいよFacebookグループ「Raspberry Piでオーディオしま専科(検索で見つかりますが、プライベートグループですから参加申請が必要です)」のカバー写真で有名な「黄色基盤」です。正式な製品名は知りませんが、私がeBayで買った際の商品名は「Audiophonics DAC Sabre ES9023 I2S vers Analogique 24bit/192KHZ ll」でした。残念ながら黄色基盤は今では入手困難です。

黄色基盤は50.000MHzのクロック(オシレーター)が付いており、ラズパイのGPIOのI2S信号ピンに接続すれば再生できます。またクロック横の100Ωの抵抗(左写真の赤丸の位置)を除去すると、基盤上のクロックは使用せず、I2SのMCLK信号をマスタークロックとして使用します。「黄色基盤 Amanero経由」は、この100Ω抵抗を除去して、USB to I2S DDCのAmanero Combo384からMCLKを含むI2S信号を供給したものです。Amanero Combo384は、48kHz系向けに24.5760MHzの、44.1kHz系向けに22.5792MHzのクロックが付いてるので、50.000MHzひとつよりは高精度なはずです。その結果、ラズパイGPIO直結と比べて、SINADが3dBほど向上しました。しかしCombo384の€79という価格を考えると、あまりコスパの良い改良ではありません。むしろ1000円か2000円で買えた黄色基盤をラズパイに直結しても、SINAD=89.9(約90!)という性能だったことの方が素晴らしいコスパだったと思います。黄色基盤だけでなく、最近はES9023搭載の安価なDACが入手困難なのは残念です。


HiFiBerry DAC+ Pro (SINAD=92.3dB@2.04Vrms)


ラズパイ用I2S DACの定番 HiFiBerry DAC+ Proも、期待通りDACチップ(PCM5122)のスペック通りの値(SINAD=92.3)を出してくれました。DAC+ Proは既に生産終了していますが、後継はHiFiBerry DAC2 Pro、$44.90でほぼ同じスペックのものが引き続き手に入ります。DAC2 ProのDAC+ Proとの違いはオプションでDSPモジュールをアドインできることです。いずれも Rasberry Pi OSはじめ、Volumio、MoOdeなど、ほとんどのディストリビューションがサポートしていますから安心して使えます。ラズパイオーディオ初心者は、USB DAC または HiFiBerry DAC2 Proから始めるのが良いでしょう。HIFIBERRY DAC BUNDLE PI 4は、HiFiBerry DAC2 Pro + Raspberry Pi 4B 2GB + Steel Case を日本への送料込みで $200で入手できます。(2023.02.25時点)参考までに Audio Science Reviewのレビューへのリンクも付けておきます。

NanoHat PCM5102A (SINAD=92.3@1.99Vrms)


FriendlyELECのNanoHat PCM5102Aは Nano Pi NEO用のI2S DACです。この写真ではNanoPi NEO2 の上にマウントしてあります。一時ラズパイが全く手に入らない時期がありましたので、当時(2022年) NanoPi NEO2 + NanoHat PCM5102Aが、ラズパイ+HiFiBerry DACの代替となり得るか?を評価してみました。驚くべきことにHiFiBerry DAC+ Proとまったく同じ SINAD = 92.3という結果になりました。 1kHz信号の両側にジッターと思われるスパイクが出ていますが、$9.99という価格を考慮すると、驚異的なコスパです。Nano Pi NEO2は廃版になりましたが、後継の NanoPi NEO3-LTS が入手できます。

DENON PMA-800NE RECORDER OUT (SINAD=90.6@2.01Vrms)


DENON PMA-800NEはエントリークラスのアンプです。主なスペックはTHD+N = 0.01% @定格出力-3 dB時、負荷8Ω、1 kHzです。既に販売は終了しており、後継機種はPMA-600NE(やや最大出力で劣る)または PMA-900NE(ネットワーク再生機能搭載)のようです。DACを搭載しており、SPDIF(COAXおよびToslink)からデジタル信号を入力できます。HiFiBerry Digi+ Proから48kHz/24bitのデジタル信号をCOAXで送り、RECORDER OUTの出力を測定しました。結果はSINAD = 90.6 / THD+N = 0.003% とアンプのスペックに対して必要十分な性能を発揮しました。

IQaudio Pi-DAC Pro (SINAD=83.1@1.98Vrms)


IQaudio Pi-DAC Proは既に製造終了していますが、現時点(2023年3月)で秋月電子通商の通販に在庫があり3100円+送料で購入できます(店舗には置いてありません)。後継の新しいバージョンは Raspberry Pi DAC Pro という名称でRaspberry Pi 財団から販売されています。今回テストしたものは秋月電子通商から購入した旧バージョンです。このDACは注意が必要です。ハードウェアボリュームを搭載していますが、その最大出力だと2Vrmsでクリップされて著しくTHDが悪化します。今回は比較のため -1dBFS で測定しました。さらに -4dBFSまでボリュームを下げるとSINAD=95程度という良い値を出します。ただし出力レベルが低くなるので参考値とします。このDACは3100円と安価ですが、使用にあたって注意が必要なので、一般にはお勧めできません。

Gain = -4dB SINAD=94.7@1.41Vrms


Marantz NR1200 Pre-out(SINAD=78.9@1.99Vrms)

Marantz NR1200 Pre-out(SINAD=102.6@1.18Vrms)


Marantz NR1200はネットワーク再生機能を搭載したエントリークラスのアンプです。DENON PMA-800NEと同様にDACを搭載しており、SPDIF(COAXおよびToslink)からデジタル信号を入力できます。PMA-800NEのときと同じく、HiFiBerry Digi+ Proから48kHz/24bitのデジタル信号をCOAXで送り、プリアウトの出力を測定しました。NR1200のプリアウト端子は、PMA-800NEのRECORDER OUTと違い、固定レベルではなくボリューム調整できる可変レベルになっています。ゲインは0が Full Scale(dBFS)ではなく、-79.5dB〜+18.0dBの間で可変となります。ボリューム=+3.5dBで約2Vrmsの出力になります。+3.5dB/1.99VrmsでのSINADは78.9。Audio Science Reviewで(NR1200とほぼ同じ外観の)Marantz NR1510のレビューを見ると、同じく1.99VrmsでSINAD=77と非常に悪い評価になっています。

 ところがレベルを下げていくと、-1dBで SINAD=102.6とクリーンになります。このアンプのプリアウトは、本体でボリュームコントロールしてサブウーファーに出力する用途が主でしょうから、出力2Vrms時点のSINADが悪くてもあまり気にする必要はないのかも知れません。DACの性能はSINAD=102程度あると思っても良いのではないでしょうか?(確証はないのですが)

 この内蔵DACの弱点はジッター耐性です。かなり大きいジッタを含む Amazon Basic HDMI Audio Extractor経由で入力するとノイズレベルが20dB近く上昇します。TOPPING D50はDigi+ Proであろうが、Amazon HDMI Audio Extractorであろうが、出力アナログ信号のTHDもノイズも変わりません。旭化成のDACチップ(AK4458VN)と、強制リクロックするESSのDACチップ(ES9038Q2M)による違いと推測します。

Raspi-4 Digi+ Pro COAX → NR1200

SINAD = 103 / THD+N = 0.0007%

Raspi-4 HDMI → Amazon HDMI Audio Extractor COAX → NR1200

SINAD = 85.1 / THD+N = 0.0056%


MacBook Pro 14" 3.5mmステレオジャック (SINAD=95.4/@1.01Vrms)


次にM1 Proを搭載した2021年製 MacBook Pro 14"に内蔵のDACです。Appleは2021 年以降に発売された対応モデルの Macについて、次のように公表しています。
Mac でハイインピーダンスのヘッドフォンを使う

対応モデルの Mac の 3.5 mm ヘッドフォンジャックは、DC 負荷を検知し、出力電圧を状況に応じて調整します。Mac は接続されたデバイスのインピーダンスを検知し、ローインピーダンスまたはハイインピーダンスのヘッドフォンや、ラインレベルのオーディオ機器に合わせて出力を適宜調整します。

入力インピーダンスが10kΩの場合、ラインレベルと認識して最大出力電圧は2Vrmsに調整するか?と期待したのですが、残念ながら1Vrmsでした。しかしDENON PMA-800NEに接続したところ1Vrmsでも最大出力を得ることができました。また、SINADは95.4dBとHiFiBerry DAC+ Proを上回り、PMA-800NEはスペック通りの値(THD+N = 0.01% @定格出力-3 dB時、負荷8Ω、1 kHz)を出せました。冒頭に「MacやPCの内蔵DACはどうでしょう?(そんなハズはないとお思いますが)仮にUSB DACと遜色がなければ、外付けDACは不要になります。」と書いたのですが、Macに関しては、そんなハズはない結果になりました(笑)。

上海問屋 DN-USB DAC (SINAD=92.9@1.18Vrms)

 

昔(2012年)上海問屋で3000円台で買ったDACです。これも最大出力電圧が1.2Vrms程度なので参考データになります。SINADは92.9と良さそうなのですが、古いDACに共通の欠点があります。デジタルデータのサンプリング周波数とビット解像度が低いと、1kHzくらいの信号は良いのですが、高い周波数をうまくDA変換できません。理論上は44.1kHz/16bitで可聴域(20kHz以下)は正しく元の波形を再現できるはずなのですが、そのためには膨大な計算が必要になります。冒頭に書いた「その点において、この10年間のDACの進歩は目を見張るものがあります。」とは、そういう意味で、最近のDACは問題なくDA変換をこなしますが、昔の安価なDACはそうでもありませんでした。

 左画像の上はこの上海問屋 DN-USB DACで44.1kHz/16bitの20kHzSin波を出力し、オシロスコープで見たもの。下はTOPPING D50のものです。Sin波の高さが違うのは最大出力電圧が違うからですが、上はSinカーブに見えませんね。これを96kHz/24bitのハイレゾデータにすると、もっと綺麗なカーブになります。逆説的ですがハイレゾの良さは良いDACだとわかりません。悪いDACでないと(笑)。


秋月 AKI.DAC U2704 REV.C (SINAD=82.1@0.65Vrms)

 

だんだん冗談ぽくなってくるのですが、秋月で1700円で買ったDACキットです。TI PCM2704は16bitしかサポートしてないので、48kHz/16bitでの測定です。SINAD=82というのは、まあまあですね。でもアンプのSINADと同じくらいですし、最大出力電圧も低いのでエントリークラスとはいえ、まともなメーカーのまともなアンプに使うのは避けたいです。

 秋月の500円くらいのアンプキットと、500円くらいのスピーカーユニットを、かんすぴの箱に入れて、このDACで音を出すと意外と良いかも知れません。ただし関西風に言うと「しらんけど」。


HP Pavilion Headphone out (SINAD=78.8@0.49Vrms)


ついに最下位まで来ました。私は以前 HP ZBook 14という3D CAD用のワークステーションを仕事で使っていましたが、その Headphone outはSINAD=86とまあまあ良かったです(Audio Science Reviewのレビューはこちら)。このHP Pavilionも期待したのですがダメですね。PavilionはZBookと違い、プロ向けワークステーションではなく、コンシューマ向けのPCです。HP Pavilionの内蔵DACと3.5mm Headphone outは、今どき24bitに対応してない、SINAD悪い、出力レベルが低くてヘッドフォンは良いけどラインレベルは無理、という理由でオーディオ用には推奨できません。素直に外付けUSB DACを買いましょう。

APPENDIX B. DACのDA変換性能の指標

冒頭に書いた通り、DACの役割はできるだけ正確にデジタルデータをアナログに変換してアンプに渡すことです。別の言い方をすると「透明」であるべきと思います。よく「THD+Nで、あるいは、単純なSin波でDACの音質がわかるわけがない」という指摘を聞きます。その通りですが、このブログで比較したのはDACのDA変換の「正確さ」あるいは「透明度」です。前述の通り音はDACからではなくスピーカーから出ますので、音質については比較していません。
「任意の波形は、異なる周波数と振幅の正弦波の和として表すことができる」とフーリエが言い出して、後にカール・ワイエルシュトラスとシャルル・エルミートが数学的に証明していますから、Sin波を使ってDA変換の正確さを評価するのは間違いではないと思います。問題はTHD+Nと言っても1kHzのSin波だけで比較したことです。
 DACの正確さを定量的・客観的に判断するためのTHD+N以外の指標を紹介します。APPENDIX A.で具体的に指摘した通り、THD+Nがよくても、他の欠陥があるDACもあります。

周波数特定(Frequency response)と左右バランス

横軸に周波数、縦軸にレベルをプロットすると、基本的にほとんどのDACはフラット(平ら)です。また左右チャネルに違いがなく、LもRも同じレベルです。しかし中にはロールオフフィルターの設計ミスや製造ミスで10kHzあたりから減衰するDACもあります。良い例として「黄色基盤」、極端に悪い例として「上海問屋 DN-USB DAC」の周波数特性を掲載します。

周波数特性の良い例(黄色基盤)

周波数特製の悪い例(上海DAC)


ジッター(Jitter)

ジッターと一言で言っても、DAC自体のクロック精度によるジッターと、デジタル入力信号に含まれるジッターがあり、そのジッターのアナログ出力への影響の仕方も多様です。単に信号の周波数前後に可聴でないレベルの小さな歪みが出るだけだったり、著しくノイズフロアを上げたり。綺麗な信号を送りJ-Testで見るとDAC自体のジッターは小さくて優秀でも、実はジッター耐性が低いため、ジッターが大きい汚い信号を入れると著しくノイズフロアが上がるDACもありました。J-Testで見てジッター起因の歪みが大きく見える場合よりも、ノイズフロアが上がる方が聴覚上の悪影響が大きいようです。私はジッターの影響は可聴でないと思い軽視していたのですが、思ったより奥が深い(あるいは闇が深い...笑)ようです。

 クロック精度が悪いとDACが波形を生成する時のタイミングが乱れて波形が崩れるので、それが歪みになって現れます。ジッターによる歪みの検出にはJ-Testがよく使われます。J-Testはサンプリング周波数の1/4(48kHzの場合は12kHz)の矩形波と、2つ目の成分として一定の周期(周期は特に重要ではありませんがサンプリング周波数が48kHzの場合は250Hzがよく使われます)で最下位ビットを反転して0(000000)と-1(FFFFFF)を交互にDACに送ります。12kHzの矩形波はDACにより正弦波になりますが、250Hzの交互反転がジッターを増幅し、12kHzの信号の両側に歪みを生じます。高調波歪みと違い、12kHz信号の前後に歪みができます。歪みが小さい例として「TOPPING D50」、大きい例として「上海問屋 DN-USB DAC(上海DAC)」を掲載します。上海DACは歪みが多いですが、この程度の歪みは可聴ではないので周波数特性ほど気にする必要はありません。

J-Testでジッター起因の歪みが少ない例(TOPPING D50)

J-Testでジッター起因の歪みが大きい例(上海DAC)


クロック精度が原因のジッター起因の歪みよりも影響が大きいのが、ジッター耐性です。入力デジタル信号のジッターによって著しくノイズフロアが上がる場合があります。Marantz NR1200は、かなり大きいジッタを含む Amazon Basic HDMI Audio Extractor経由でCOAXに入力すると、ジッターがほとんどない信号とと比べて、ノイズレベルが20dB近く上昇しました。一方でTOPPING D50は入力信号のジッターの影響をほとんど受けなかったです。

ジッターの小さいデジタル信号 → NR1200内蔵DAC

SINAD = 103 / THD+N = 0.0007%

ジッターの大きいデジタル信号 → NR1200内蔵DAC

SINAD = 85.1 / THD+N = 0.0056%


混変調歪み (IMD: Intermodulation Distortion)

混変調歪み(IMD)は複数の信号が影響しあってできる歪みです。IMDは高調波とは違って信号の倍音とは異なるため、濁った音に聞こえると言われています。混変調歪み測定のための標準規約は複数ありますが、いちばん多く使われるのはSMPTEと呼ばれる60Hzと7kHzの2つの周波数の組み合わせです。混変調歪みが少ない例としてTOPPING D50、悪い例として上海DACのIMDを掲載します。2つの信号ではなく、20から30の周波数を使ったMultitone IMDというテストもあります。

IMD良い例(TOPPING D50)

IMD悪い例(上海DAC)


1kHz以外のTHD (THD vs Frequency)

今回のTHD+Nの測定は1kHz Sin波で行いました。周波数によってノイズが変わることはあまりないのですが、DACによっては周波数によって歪みが増大します。下のグラフは2次と3次の高調波歪みをTOPPING D50(赤)と上海DAC(緑)で比較したものです。上海DACは200Hz以下で歪みが増大していますね。上海DACは200Hz以下の出力レベルが下がるので、そのせいかと思います。(THD%は信号に対するTHDの比率ですから)


出力レベル対歪み (THD vs Level or IMD vs Level)

THD+NのN、つまりノイズはDACの出力レベルに対してほぼ一定のため、出力レベルが下がればレベルに対するNの比率は上がります。下左のN vs Levelのグラフは、TOPPING D50(赤)とMOTU M4(緑)の、縦軸にN(dBr)、横軸に出力レベル(dBFS)をプロットしたものですが、ご覧の通りほぼリニアな関係です。一方でTHDは出力レベルにより変化します。下右のグラフは、同じくTOPPING D50(赤)とMOTU M4(緑)の、縦軸にTHD(dBr)、横軸に出力レベル(dbFS)をプロットしたものです。TOPPING D50は-40dBFSから-30dBFSあたりにかけて、かなりTHDが悪化しています。APPENDIX A.のTOPPING D50の解説で書いた通り、これがアンプのTHD+Nを悪化させました。0dBFSのTHD+Nが非常に優れたDACでも、正確性においてこのような欠陥がある場合があるのですね。


その他のDA変換性能の指標

以上がTHD+N以外に、DACの「正確さ」あるいは「透明度」に関する主な指標です。それ以外の指標も紹介します。

 

ダイナミックレンジ(またはS/N比)

ダイナミックレンジとは信号の最大と最小の比率です。-60dBの小さい信号を出してTHD+Nを計り、+60dBすると得られます。S/N比は信号とノイズフロアの比率です。ダイナミックレンジまたはS/N比は、DACのスペックとして必ず明記されています。なぜそれを「その他」に入れたかというと、今回測定したDACのほとんどが90dB以上だったからです。最も良いもので120dBですが、30dBの性能差があっても聴覚上大きな違いがあるとは思えません。

 

クロストーク(Stereo crosstalk)

クロストークは左チャネルに出した信号が右チャネルから聞こえたり、その逆です。これも今回測定した DACのほとんどが -90dB以下でした。クロストークが問題になるとは考えにくいです。製造不良でひどいクロストークがある場合は別ですが。

 

リニアリティ(linearity)

リニアリティはDACへの入力信号と出力信号の比率の正確性です。たとえば0dBFSのデジタル信号を入力すると2Vrms出力するDACに、-6dBFS入力すると1Vrms出力するか?といった正確さです。この正確さが損なわれると音の大小が不正確にになりますが、今回測定したDACはほぼリニアでした。

 

ちなみに Audio Science Review (ASR) では、DACは以下の項目を測定しています。例えばTOPPING D50の「歪み vs Level」の欠陥はレビューのIMD (SMPTE) vs Levelの測定で指摘されていますので、買う前に読めば事前にわかります。(私は買う前に読まなかったのですが...)

  1. THD+N/SINAD
  2. Dynamic range
  3. Multitone IMD
  4. IMD (SMPTE) vs Level
  5. SINAD vs Volume Level
  6. Linearity
  7. Jitter
  8. FFT Spectrum of White Noise (roll-off filter)
  9. Frequency Response