はじめに
2年前のことですがスイッチング電源 vs リニア電源と題してブログを書きました。その時点でわかったことは、
- スイッチング電源より、リニア電源の方がノイズが少ない → 事実
- ラズパイのmicroUSBから給電するより、GPIOから給電した方がヒューズとMOS FETをスキップできるのでノイズが少ない → 嘘
- ラズパイとDACのアナログ部を分離給電すると、ラズパイのレギュレーターの悪影響を排除できるのでノイズが少ない → 事実
- 残留ノイズが実際のリスニングにどの程度の悪影響があるか?→ わからない。聞いても大差がない。
今回は、課題であった4.の可聴域への影響を検証します。
の3種類の電源でRaspberry Pi 3B+とHiFiBerry DAC+ Proに給電して比較します。Allo Nirvana SMPSは低ノイズが売りのスイッチング電源です。給電に使うケーブルはいずれもDCR(直流抵抗)が185mΩのUSBケーブルを使います。私が手持ちのUSBケーブルの中では、もっともDCRが低いものです。なお今回はラズパイとDACのアナログ部の分離給電は確認しません。分離給電用のHiFIBerry DAC+ Proは極性を間違えて給電し壊してしまいしました(笑)。
電源ノイズ
各電源でラズパイに給電し、HiFiBerry DAC+ Proで無音のWAVファイルを再生中にDACのRCA端子から出力されるノイズを比較します。左からダイソー、L.K.S、そしてAllo Nirvana SMPSです。前回はTektronixのオシロスコープを使いましたが、今回は手持ちのAnalog Discovery 2のスコープ機能を使いました。
DAISO
L.K.S.
Allo Nirvana
Peak-to-peakとRMSの比較は左の表の通りです。ダイソーとL.K.S.はほぼ前回と同じ値。AlloはL.K.S.に近いです。
ダイソーのノイズはPeak to PeakでL.K.S.の3倍近い12.6mVですが、RMSは0.7mV程度。DACのRMSは1.4V程度ですから影響は小さいと考えます。次に時間軸を見てみると、ノイズの間隔は30μ秒程度です。33kHz程度なので微妙ですが可聴域から外れています。
THD+N
ではTHD+Nを計測します。使用する機材はSteinbergのオーディオインタフェースUR24Cで、入力ダイナミックレンジが102dB、THD 0.0035%、ノイズフロアは-120dbFS程度ですから、オーディオ・アナライザーのような高精度な測定はできません。しかし一般の人間の聴覚レベルを超える計測は可能ですから、聴覚上影響のあるノイズがあるなら検出可能です。以下に3種類の電源を使い、Raspberry Pi 3B+ / HiFiBerry DAC+ Pro で1kHz / -3dbFSのTHD+Nを測定した結果を示します。
DAISO
L.K.S.
Allo Nirvana
左からダイソー、L.K.S.、Allo Nirvanaですが、なんとすべてTHD+N = 0.039%です。私の手持ちのオーディオインタフェースで測定できる限りでは3種類の電源の違いによる可聴域への歪みとノイズの影響は確認できませんでした。
USB DACのroll-off filterについて
余談ですが、私が愛用しているUSB DAC TOPPING D50(および後継のD50s)には、20kHz以上の周波数をカットするroll-offフィルタが搭載されています。モードは7種類ありますが、いずれも20kHzを超えると減衰し、30kHzまでには -90dBまで抑えます。DACチップのΔΣ変換に起因する高域ノイズをカットするのがフィルタの目的と思われます。
このためかどうか、D50をダイソーのACアダプターで給電しようがリニア電源で給電しようが、オシロスコープで見てノイズの違いは判別できませんでした。当然、出力品質(THD+N)にも影響しません。
左図はTOPPING D50sのマニュアルからの引用です。D50sのマニュアルは下記から入手できます。
Steinberg UR24CのADCより高精度なCosmos ADCを入手しましたので再測定しました。下記完結編をご覧ください。(2022.11.13追記)