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スイッチング電源 vs リニア電源(完結編)

はじめに

2019年以来、複数種類の電源からラズパイに給電し、HiFiBerry DAC+ ProのRCA端子から出る残留ノイズを比較しました。その結果は、2回にわたってスイッチング電源 vs リニア電源と題してブログに投稿しました。その時点でわかったことは、下記の通りでした。

  1. スイッチング電源より、リニア電源の方がノイズが少ない → 事実
  2. ラズパイのmicroUSBから給電するより、GPIOから給電した方がヒューズとMOS FETをスキップできるのでノイズが少ない → 
  3. ラズパイとDACのアナログ部を分離給電すると、ラズパイのレギュレーターの悪影響を排除できるのでノイズが少ない → 事実
  4. 残留ノイズが実際の音質にどの程度の悪影響があるか?
    聴き比べても違いがわからない。(1回目)
    Steinberg UR24CでTHD+Nを測定した限りは違いがない(2回目)

Steinberg UR24CのADCよりも高性能なCosmos ADCを入手しましたので、上記の4.を再検証します。今回で電源による違いの検証の最終回、または、完結編となります。

今回比較した電源は次の4種類です。

  1. ダイソーで300円で購入した2.4AのスイッチングACアダプター(下の写真の手前右の白いACアダプター)
  2. Switch-Scienceで1705円で購入した3.0AのスイッチングACアダプター(右から2つ目の黒いACアダプター)
  3. Alloの低ノイズスイッチング電源 Nirvana SMPS。価格はUS$59.00。(右から3つめ)
  4. L.K.S. Audioのリニア電源 LPS-25。価格はUS$169.98。(右から4つめ)

これら4つの電源からラズパイ(Raspberry Pi 4)に給電して、HiFiBerry DAC+ ProのRCA端子からの出力を比較します。

 

これらに加え、ラズパイとHiFiBerry DAC+ Proの分離給電も比較します。HiFiBerry DAC+ ProはラズパイのGPIO経由で給電されます。しかしHiFiBerry DAC+ ProのR14ダミー抵抗を除去し、P3ピンヘッダーから給電することで、ラズパイの電源やDACのデジタル部の回路から独立して、DACのアナログ部に直接給電することが可能です。理屈の上ではラズパイ経由のノイズを分離・除去できる可能性があります。ただしR14を除去すると、メーカーのサポート対象外になりますので、お勧めはしません。写真右上のHiFiBerry DAC+ ProはR14抵抗を除去し、P3に給電ケーブルを接続した状態です。ラズパイにはAllo Nirvana SMPSから給電、HiFiBerry DAC+ ProのP3ヘッダピンにはL.K.S. LPS-25から給電し、これを5つ目の比較対象とします。

 

今回は、さらにUSB DACのTOPPING D50でも電源による違いを検証します。

Cosmos ADCとAPU

今回測定に使用したADC (AD Converter)はCosmos ADCです(下の写真の右)。非常に高性能なADCですが、入力インピーダンスが低いという欠点があります。HiFiBerry DAC+ ProとTOPPING D50どちらも出力電圧は最大2Vrmsでアンバランス(RCA)出力です。そこで、ADCの入力レンジを2.7Vrmsに設定すると入力インピーダンスは1kΩ(バランス)の30%減で700Ω(アンバランス)になります。(右の表参照)

 アンバランスのDACは通常、アンプの入力インピーダンスが10kΩ程度(最低でも5kΩ)を想定して設計されていますから、入力インピーダンス700Ωですと、過電流による歪みが出る場合があります。実際にTOPPING D50は大きな問題がありませんでしたが、HiFiBerry DAC+ ProではTHDが増大しました。

Cosmos APU(写真中央)をCosmos ADCの前段に使うことで、さらに測定精度を上げることができます。まずCosmos APUを計測用の入力バッファとして使うことができます。Cosmos APUの入力インピーダンスは20kΩ(バランス)/10kΩ(アンバランス)ですから、Cosmos ADCの低インピーダンス問題を解消できます。

 2つ目にCosmos APUは入力信号を+34dBまたは+60dBに増幅する機能があります。DACから-60dBFS(MAXの1/1000)の信号を送り、Cosmos APUで+60dB(1000倍)に増幅してからCosmos ADCに渡せば、信号以外のノイズも増幅されますから、ダイナミックレンジをより正確に測定できます。

 3つ目は入力信号に対して1kHzまたは10kHzに-30dBのノッチ(凹み)を作る機能(1kHz/10kHz -30dB Notch Filter)です。DACから1kHzの信号を送り、Cosmos APUで信号を-30dB減衰してからCosmos ADCに渡し、FFTをかける前に+30dB補償してやれば、THD+Nをより正確に測定できます。実はオーディオ・アナライザーの定番であるAudio Precisionの測定器も、この Notch Filter を利用して高精度な測定をしています。

 

以上が概要ですが、より詳細にCosmos ADCとCosmos APUについて知りたい方は、英語になりますが、下記のサイトをご覧ください。

電源ノイズ

1回目と2回目の投稿では電源ノイズをオシロスコープで観測しましたが、今回はCosmos APU/ADCとREW(Room EQ Wizard)のRTAをスペアナ的に使用して測定します。各電源からラズパイに給電し、HiFiBerry DAC+ Proで無音のWAVファイル(dataチャンクがすべて0)を再生中のノイズを比較します。ノイズはCosmos APUで+60dB増幅し、Cosmos ADCからは96kHz/24bitでREWに渡し、REWのRTAで20Hzから40kHzまでの周波数帯を表示します(上図)。Cosmos APUで+60dB増幅した上、Cosmos ADCの入力レンジは1.7Vrmsと最小にしましたので、ノイズを拡大して見ることができます。この設定で仮に0dBFS(2Vrms)の信号を送ると入力レンジをオーバーしてしまいます。

 まずはDAISOとSwitch-ScienceのACアダプタから比較しましょう。どちらも50Hzの家庭用AC電源のリークと、その高調波(100Hz, 200Hz)が見られますが、DAISOの方がノイズが多いですね(150Hz, 9kHzなど)。

HiFiBerry / DAISO

HiFiBerry / Switch-Science


次にAlloのスイッチング電源とL.K.S.のリニア電源とも比較します。これらも50Hzのリークはありますが、全体的にACアダプタと比べてノイズが低いです。Allo Nirvanaはスイッチング電源ですが、ノイズ対策が施されているので非常に優秀ですね。

HiFiBerry / Allo Nirvana

HiFiBerry / L.K.S. LPS


HiFiBerry / Allo Nirvana (Raspi) / L.K.S. LPS (DAC)

最後に分離給電です。ラズパイにはAllo Nirvanaから、HiFiBerry DAC+ ProにはL.K.S. LPSから給電します。目盛り(縦軸のdBFS)を見て比較をすれば、50Hzのリークがさらに小さくなっていることがわかります。しかし微妙な差です。

 各電源間でノイズの大きさに差があることはわかりましたが、これだけ増幅・拡大しても-80dBFS程度かそれ以下ですから、ノイズはaudibleではない(聞こえない程度)と思います。これから詳しく見ていきます。

 

その前にTOPPING D50での電源による違いも見てみます。


USB DACのTOPPING D50でノイズを比較してみると、電源による差はほとんどわかりません。下の画像の左がDAISO、右がL.K.S. LPSです。比較をすると微妙にL.K.S. LPSの方がノイズが少ないようにも思えますが良く分かりません。L.K.S. LPSとAllo Nirvanaとの違いはまったく分かりませんでした。(まったく同じなので画像は省略します)

TOPPING D50 / DAISO

TOPPING D50 / L.K.S. LPS


ダイナミックレンジ(S/N比)

次にダイナミックレンジの電源による違いを比較してみます。DACからは-60dBFSの信号(1kHz Sin波)を出し、それをCosmos APUで+60dB増幅してからAD変換します。(上図)-60dBFSの信号を測定しているので、S/N比は60dBだけ悪い値が計測されます。計測したTHD+Nの逆数(S/N比)に60dBを足してやればダイナミックレンジを求められます。ダイナミックレンジに関しては電源による違いはほとんど見られません。DAISO ACアダプターでは50Hzのリークが見られますが、分離給電と比べても他に大きな違いは見られません。以下はDAISOとL.K.S. LPSの計測結果です。他はほぼ同じ画像なので省略します。

HiFiBerry / DAISO

HiFiBerry / L.K.S. LPS


次にTOPPING D50ですが、こちらは電源による違いはまったく分かりませんでした。以下はDAISOとL.K.S. LPSの計測結果です。他はまったく同じ画像なので省略します。

TOPPING D50 / DAISO

TOPPING D50 / L.K.S. LPS


いずれの電源から給電しても、

HiFiBerry DAC+ Proの THD+N = -50.5dB / ダイナミックレンジ = 110.5dB

TOPPING D50のTHD+N = -60.8dB / ダイナミックレンジ = 120.8 dB

でした。

THD+N / SINAD

最後にTHD+NとSINAD(単にTHD+Nの逆数)を計測します。DACから0dBFSの1kHz Sin波を出し、APUのノッチで1kHzを-30dB減衰、ADCで入力レンジの調整のため+6dB増幅し、Macに取り込んでからFFTをかける前に信号を+30dB補償します。(上図)今回もDAISOのACアダプタだけ50Hzに小さいリークが見えますが、他はSwitch-ScienceのACアダプタも含めて違いがまったくありません。いずれの電源でもSINAD=91.9dB、THD+N=0.0025%でした。

HiFiBerry / DAISO

HiFiBerry / L.K.S. LPS


次にTOPPING D50の測定です。こちらも給電する電源による違いはまったくわかりません。いずれの電源でもSINAD=109.0dB / THD+N = 0.00035%でした。

TOPPING D50 / DAISO

TOPPING D50 / L.K.S. LPS


結論の前に今回の測定精度を検証します。両DACともASR (Audio Science Review)のAmirさんがAudio Precisionを使って測定済です。

Review and Measurements of HiFiBerry DAC+ Pro

Review and Measurements of Topping D50 DAC

その測定結果と比較してみると、ほぼ同じ値ですので、今回の測定結果は信頼できると思います。

 

(*) 私は片チャネル(左)しか測定しませんでしたが、Amirさんは両チャネルを測定しています。

結論

検証結果:

  • I2S DACのHiFiBerry DAC+ Proに関しては、ラズパイへ給電する電源の種類により、RCA端子から出力されるノイズに違いがあった。
  • ラズパイ・DAC分離給電は、リニア電源に対しても若干のノイズ低減効果が見られたが、大きな違いはなかった。
  • USB DACのTOPPING D50に関しては、DACに給電する電源の種類による差異はまったく確認できなかった。
  • いずれのDACも、ダイナミミックレンジ、SINAD、THD+Nとも、電源による違いは確認できなかった。

このことから、DACに関しては給電する電源の種類による音質の違いは、ほとんどないものと思われます。

 

しかしラズパイに給電することを考えると、DAISOのACアダプタのようなスマホ充電用のものはお勧めできません。「ラズパイオーディオ入門」でも書いた通り、直流抵抗の低い給電ケーブルを使用しないと給電ケーブルの抵抗で電圧降下が発生し、ラズパイが頻繁に Under-voltage detected! という警告を出す場合があります。

 

今日の選択肢の中では、スイッチサイエンスのラズパイ4用のACアダプターは、電圧降下を考慮した5.1 V/3.0 A 出力で、安全規格のPSEマークを取得しているのでお勧めできます。もちろん他社同等品(5.1V/PSEマーク)でも問題ありません。

おまけ TOPPING D50 DSD vs PCM

第2回目の投稿に「USB DAC TOPPING D50には、20kHz以上の周波数をカットするroll-offフィルタが搭載されています。このためかどうか、D50をダイソーのACアダプターで給電しようがリニア電源で給電しようが、オシロスコープで見てノイズの違いは判別できませんでした。」と書いたところ、次のようなコメントをいただきました。

 

「ところで、D50sのroll-offフィルタについてですが、ソースがDSDの場合も有効なのでしょうか。例えば、予めソースをfoobar2000のfoo_dsd_converterなどで、DSD512に変換して再生した場合とか、もしよかったら一度、測定していただけないでしょうか?」(のえらー 様)

 

左図はD50マニュアルより引用:https://www.tpdz.net/download

このコメントをいただいた時点では検証の方法がなかったのですが、roll-off周波数帯まで高精度に測定できるCosmos ADCを入手できたので、今回は確認してみました。e-onkyoの無料サンプル音源からSOUVENIR part IIのFLAC 192kHz/24bit (PCM)、DSF 2.8MHz/1bit (DSD64)、DSF 5.6MHz/1bit (DSD128)をダウンロードし、それぞれ最初の1分間を再生し、周波数特性の平均を比較しました。

DSF 2.8M (DSD64)

DSF 5.6M (DSD128)

PCM 192k/24bit


一番左のDSF 2.8M (DSD64)は30kHzあたりからDSD特有の右肩上がりのノイズが伸びかかっていますが、40kHz以上は急速に減衰しています。TOPPING D50のroll-offフィルタの効果と思います。DSF 5.6M (DSD128)とPCM 192kは40kHzあたりに小さな山がありますが、まったく違いがわかりません。「TOPPING D50のroll-offフィルタは、ソースがDSDの場合も有効です」と言えます。

 余談ですがe-onkyoでSOUVENIRの各フォーマットの価格を比較してみると、DSF 2.8MとFLAC 192kが同じ価格です(ファイルサイズもほぼ同じ)。DSF 5.6Mは価格が倍近くになります(ファイルサイズも倍近く)。「e-onkyoでこのアルバムを買って、TOPPING D50で再生する場合」という非常に限定的な比較では、FLACではなく、DSFを買う理由はありません。一般的にもFLACのハイレゾとDSF 2.8Mが同じ価格であれば、DSF 2.8Mを買う理由はないと思います。PCMとDSDの比較については英語になりますが、こちらの動画が参考になると思います。Audio Comparison: PCM DXD DSD (Sound Liaison High Res Format Comparison)